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第3回配信 結婚・・・その1「重婚」続き

【婚姻の取消し】
台湾と日本の民法、とくに結婚について話しを進めるつもりが、重婚で停滞しています。前回配信に次いで、イタリア映画の名作「ひまわり」を例にして、考えてみましょう。
ロシア戦線に送り込まれた主人公のアントニオ君は、雪の中を地獄の敗走。だが、運良く美しいマーシャに助けられた。そして二人は・・・・。
日本の民法によれば、妻のジョヴァンニは、アントニオとマーシャの婚姻を不適法な婚姻と見なして取消しを請求できます。
第744条第2項
「第732条又は第733条の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消しを請求することができる」
第732条
 「配偶者のある者は、重ねて婚姻することができない」
要するに、アントニオ君が重婚だとすれば、本妻のジョヴァンニも、新妻のマーシャも婚姻の取消しを請求することができます。台湾の民法でも重婚が無効だとしていることは、前回配信で述べたとおりです。ただ、ほんの僅かですが、若干のニュアンスの違いを感じます。日本の民法では、その婚姻を「不適法な婚姻」と見なし、その上で「取消しを請求することができる」としています。つまり、婚姻は成立したことは認めるが、その婚姻は不適法だ、とするのが日本の民法です。これに対して、台湾の民法では、「配偶者を有する者は重婚できない」とし(985条)、その婚姻を「無効」としています(988条)。即ち、台湾では、その婚姻が重婚であれば、婚姻そのものを無効として成立を認めません。最初から存在しないことになります。
不適法な婚姻であろうと、婚姻無効であろうと、そのような行為は、刑法に定める重婚罪に該当します。日本でも台湾でも重婚罪が存在します。但し、台湾では日本に比して罪が重くなっています。
日本国刑法第184条
「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、2年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする」
中華民国刑法第237条
 「配偶者を有しながら重ねて婚姻した者、もしくは同時に二人以上と結婚した者は、5年以下の懲役刑に処する。その婚姻の相手となった者も同じ」

【法的制裁】
 さて、仮にジョヴァンニが報復心に燃えて制裁行為に出たとしたら(あくまでも仮定の話しで、映画のイメージを壊すつもりはありませんが)、アントニオ君とマーシャはどうなるのでしょうか。まず、不適法な婚姻の取り消しを請求します。その理由は、民法第770条第1項第1号(配偶者の不貞行為)、同項第2号(悪意の遺棄)を挙げることができます。そして、損害賠償をたんまり請求し、ついでに、重婚罪で二人を訴えます(そこまでやれば、もう十分でしょう)。
 台湾の法律で考えるのであれば、離婚の請求は民法第1052条第1項第1号(配偶者以外の者との合意による性交)、同項第5号(悪意の遺棄、その状態の継続)、さらには、同第10号によれば、「事情で罪を犯し、懲役6ヶ月以上の判決が確定した場合」も裁判上の離婚の事由となります。
 また、台湾の刑法では、第17章として「婚姻及び家庭を妨害する罪」を設けています。この刑法17章に規定されるそれぞれの罪を総じて「妨害家庭罪」と呼んでいます。前述の237条重婚罪もその内の一つで、また、239条では姦通罪を定めています。姦通罪は、日本では昭和22年に刑法から削除されています。
 中華民国刑法239条
 「配偶者を有する者と姦通した者は、一年以下の懲役に処す。その姦通の相手となった者も同じとする」
 因みに、姦通罪は親告罪ですが、その立証のために、台湾では興信所がけっこう繁盛しているようです。依頼を受けた調査員が密会を突き止め、警察に通報し、警察官と現場を急襲して証拠物を収集などといった修羅場の模様が、台湾のメディアをよく賑わせています。間男を捕まえる・・・中国語で「捉姦」、台湾の方言で「抓猴(猿を捕まえる)」と呼んでいます。台湾のYahooなどの検索サイトで「捉姦」、「抓猴」をキーワードにして検査すると、ヒットするサイトのほとんどは興信所(徴信社)か、修羅場のニュースです。

こうしてみると、日本と台湾は、似たような法制度が存在しても、立法の観点、歴史的、社会的背景などの違いで、必ずしも一致していません。その微妙な違いが、実務上思いもよらない事態となって、事件の解決に手間取る原因となることもよくあります。台湾関連の事件に巻き込まれた場合は、やはり日本と台湾の法制度、お国事情に精通した専門家に相談しましょう。

 しかし、戦争が生んだ悲劇とは言え、ジョヴァンニが本当に法的制裁を加えようと立ち上がったら、アントニオ君、マーシャとどのような攻防を展開することでしょう。そして裁判官はどのように判断するのでしょうか。皆様も一緒に考えて見ましょう。
ところで、そんなことになれば、アントニオ君とマーシャとの間に生まれた子は、この先どうなるんでしょうね。

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